「認知症をもつ人へのケア」の基本を知ろう!
厚生労働省は2024年5月8日に認知症とMCI(軽度認知障害)の推計結果を公表しました。それによれば、団塊ジュニアが65歳以上の高齢者になる2040年には、認知症が約584万人、MCIは約613万人にのぼるという推計が示されています。高齢社会において、認知症はとても身近なものと言えるでしょう。
例えば、自分の家族や身近な人が認知症になったとき、それでも共に暮らしていくためには、どのようなケアが望まれるでしょうか。今回は認知症ケアの基本について考えてみます。
【参考】認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究(外部サイトが開きます)
「確かさ」が失われていく“暮らしの障害”
ある認知症をもつ人の言葉を紹介します。
朝、ベッドの上で目が覚めて、一階に向かうための階段を降りながら「これで合っているのかな」と不安に思う。キッチンに立つ妻に「おはよう」と言うと、「おはよう!」と笑顔で返事があった。その笑顔を見て、「あぁ、これでよかったんだ。間違っていなかった」とホッとして、一日が始まる。……日常の些細なことであっても、自分には何一つ自信が持てなくなってしまった。これまで自分の中にあった確かなもの、確固たるものが失くなっていく恐怖と不安がある。
認知症の本質は、自分の中にあった「確かさ」が失われていくことにあるのではないでしょうか。そうした恐怖感や不安感を抱いたまま生活をしていかなくてはならない。まさに“暮らしの障がい”と言えるでしょう。
認知症を持つ人へのケアの基本は、「認知機能が低下した本人の体験する世界に目線を合わせること」です。認知機能の低下によって何が生じているのか、相手の体験する世界を知りたいと願い、探りにいくことが大切になります。望まれるのは、些細なことにも気付く目を持ち、認知症の方本人に生じている困りごとの解消を図るケアです。生活への「確かさ」を喪失していくその時々において、意思決定に支援を必要とすることがあります。具体的なケアのポイントをみていきましょう。
ケアのポイント:認知症をもつ人を捉えるとき
「いまは何月?」「ごはんは食べたっけ?」「お風呂はどうやって入った?」「ここにいていいのかな」……分からない、不安だな、こわい。こうした認識をもっている方に、どのように接するべきでしょうか。認知症をもつ人を捉えるときのケアのポイントを、4つに分けてご紹介します。「認知機能が低下した本人の体験する世界に目線を合わせること」を踏まえ、確認していきましょう。
ポイント1│老年期にある生活者として捉える
若年性認知症でない限り、目の前にいる人は「認知症をもつ人」である以前に、人生の最晩年を生きる「高齢者」です。本人にとって、よりよい生活、より豊かな人生(Well-being)を過ごしていただきたいと願います。
そのために、本人が本来望んできた生活は何か、認知機能の低下が生活のどの局面で障壁となっているかを重視しましょう。まずは、障がいを有している生活者として幅広く捉えることです。人生の最終段階である“エンド・オブ・ライフ”の視点を踏まえ、どのような生活を望んでいるか、本人らしさとは何かを探り、その人らしく生活を継続するための視点でケア展開を行っていくことが大切です。
ポイント2│残された認知機能やコミュニケーション能力に着目する
認知症になると、コミュニケーションや意思決定に不可欠な能力や機能が発揮できなくなっていきます。その最中にあっても、残された能力(持てる力)に着目することで、人や社会とのつながりは維持できます。
認知症が重度になるまで、相手の表情を読み取る能力は保たれると言われています。メモなど視覚情報の活用や、非言語的コミュニケ-ションを活用するなど、残された能力を最大限に活かしたコミュニケーションがとれるよう、努力を惜しまないことが大切です。
ポイント3│関心を寄せ続け、微弱に発せられるサインを汲み取る
言語での意思表出が困難な状況となっても、表情や仕草、ふとした時に起こす行動や繰り返し発される単語には、本人の意思が含まれています。「独語」と一括りにされることもありますが、その言葉の中に、本人にとって大切なキーワードやキーメッセージが隠れていることがあります。ケアの中で表情変化や反応を観察し、非言語的なサインから本人の意思を汲み取りましょう。
ポイント4│感情に働きかける
重度の認知機能低下がみられても、感情は残っています。何も感じていないことはありません。自分に向けられる表情が柔らかく温いか、背中に触れる手が温かで優しいものか。コミュニケーションから心地よさを感じ取ることができます。それは逆に言えば、鋭い表情や口調、触れる手の乱暴さから、悲しさや恐怖といった不快な感情を受け取る能力もあるということです。
優しさを伝える技法である“ユマニチュード”のように、快感情に働きかけることで、心地よく生活できるようなケアが望ましいでしょう。
ユマニチュードは「人間らしくあること」を支えるケアの技法です。優しさを伝えるケアとも言われ、誰でも実践できます。ユマニチュードの基本は「見る・話す・触れる・立つ」の4つです。
【見る】
ただ見るのではなく、正面から、水平に、近く、長く相手の目を見つめます。
【話す】
「声のトーン」は優しく、歌うように、穏やかに。口から出る「言葉」からも愛情の深さや、優しさは伝わります。このように話すことで、自ずと相手の尊厳を認めるような表現になり、絆が深まります。
【触れる】
ギュッといきなりつかまずに、広く、柔らかく、ゆっくりとなでるように、包み込むように触れます。触れる際の力加減は、「5歳の子どもの力」を心がけましょう。
【立つ】
子どもの頃に自分の力だけで立ち上がったこと、それを見ていた大人に喜ばれたという思い出は、ポジティブで誇りに満ちた記憶です。立つことが人間の尊厳につながります。立つ力ができるだけ長く保てるように、手を添え、立つことを支えます。
認知症の人が、暮らしの障がいを持ちながらも豊かな人生の最晩年を生ききるためには、一人ひとりに適切な理解と支援が、途切れなく継続的になされることが大切です。
「ああよかった。大丈夫だった。周りの人と助け合いながら、ちゃんとここで生きていけそうだ」。そんなふうに感じてもらえるように、ケアをする人の適切な支援が助けになります。
【監修】西宮協立脳神経外科病院 認知症看護認定看護師
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