アディクション(依存症)を抱える終末期の方への向き合い方〜訪問看護の現場から〜
西宮協立訪問看護センター、管理者の稲葉典子です。2023年6月29日(木)に開催された「第10回にしのみやアディクション問題を考える会定例会」にて「訪問看護師がみた依存症の方を取り巻く風景〜身体的な終末期でのかかわりを考える〜」というテーマでお話をさせていただきました。当日の定例会の内容についてご紹介いたします。
アディクション(依存症)とは
アディクション(依存症)とはご本人・ご家族の生活を脅かしているにも関わらず、やめることのできない「不健康にのめりこんだ・はまった・とらわれた習慣」のことを言います。(参考:NHK福祉情報サイト「ハートネット」:外部サイトが開きます)
当訪問看護センターは、さまざまな疾患・病態の方々のお住まいに訪問し、訪問看護職員として病状の観察や精神的支援、医療処置などを行います。時にはアルコール依存といった依存症を抱える方のご自宅を訪問し、支援することもあります。
依存症は当事者の生活や人生に深く影響を及ぼすものです。私たち訪問看護職員だけで支えきれない場合、相談支援者、訪問介護、行政の担当者の方々など、さまざまな職種の支援者が関わります。訪問看護に従事する中で、そのような依存症の方を取り巻く状況は、時には新鮮に、時には人生の応援団として私の目には映ります。
依存症を抱えている方の心境
訪問看護師は、依存症からその方の健康問題を遠ざけたい一心で、断酒や服薬を強く要請しがちです。しかし、その結果は往々にして「訪問看護の利用をやめます」というサービスの拒否につながってしまいます。訪問看護師は依存症を抱える方とどう向き合えばよいのでしょうか。
今回の定例会の後半では、依存症を抱える当事者の方々にもご参加いただき、意見交換の時間を設けました。話し合いのポイントは下記の4つです。話し合いを通し、依存症の方が終末期にどんな支援を受けたいのか、参加者全員で考えました。
- 人生の最終段階に向かっている依存症の方に何ができるか
- ご本人やご家族、周囲の人たちの葛藤や思いをどう受け止めるか
- ご本人やご家族、周囲の人たちは支援者にどうしてほしいか
- 支援者自身の葛藤にも目を向けて考えてみる
- 人生の最終段階に向かっている依存症の方に何ができるか
話し合いの中で、当事者の方々からは「訪問看護を拒否してしまっても、見捨てないでほしい」というお気持ちを聴くことができました。訪問看護の利用拒否とは相反するような言葉に聞こえるかもしれませんが、「拒否する気持ち」と「見捨てないでほしいという気持ち」の間に当事者の方の心があるのだと思います。話し合いを通じて、私たち支援者は、当事者から直接の声を聴き学ぶ意義を改めて確かめることができました。
アディクション(依存症)を抱える終末期の方とどう向き合うか
アディクション(依存症)を抱える終末期の方への向き合い方については、正解はないのかもしれません。しかし、こうして当事者の方も含め多職種で意見を交わし考え続けることが大事だと思います。
今回の定例会のテーマには、サブタイトルに「身体的な終末期」という言葉を入れました。当事者の方々にとって「終末期」という言葉はどう響くのだろうと思いながらお話をしましたが、しっかりご自身のこととして聴いてくださっていることが伝わってくる、温かみのある会でした。このような貴重な機会を頂き感謝しています。