中核症状における記憶障害について〜知っておきたい認知症のこと〜
認知症の中核症状(詳しくはこちらの記事「中核症状と行動・心理症状(BPSD)〜知っておきたい認知症のこと〜」をご覧ください)における、代表的な症状の一つが記憶障害です。特にアルツハイマー型認知症の初期から出現し、最も多くみられる症状となります。認知症の記憶障害は、記銘(物事を覚える)を司る側頭葉内側(脳の側面)の海馬が萎縮することによって起こります。記憶障害と物忘れは混同されやすいですが、加齢とともに自然と多くなる物忘れと、認知症の記憶障害は全く別の症状です。
今回は認知症の記憶障害の特徴と、記憶障害のある認知症の方への接し方について紹介します。
特徴1│出来事そのものが抜け落ちる
- 昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事を忘れている
- 同じことを何度も繰り返し話す(たずねる)
認知症の記憶障害では、物事を覚える段階で、出来事そのものが抜け落ちてしまいます。つまり、「朝、食事をしたこと」「数分前に家族と話したこと」「数日前に友人と食事の約束をしたこと」など、物事そのものを記憶していません。特に近時記憶(数分~数週間の間の記憶)の障害が現れることが特徴です。これに対して、加齢による物忘れは、一度は覚えた出来事を思い出す力(再生)が衰えることによって起こります。「朝ご飯を食べたことは覚えているけど、何を食べたかな?」「友人と約束したけど、何月何日の何時だったかな?」というように、出来事の一部を忘れている場合は加齢による物忘れの可能性が高いでしょう。
特徴2│物事自体を覚えていない
- お金がなくなっている、誰かに盗まれた
- 鍵がない、誰かに隠された
認知症の記憶障害では物事自体を覚えていません。お金を使ったことや、鍵や財布を自分でしまったこと自体を覚えていないのです。人から指摘されても信じられず、盗まれた、隠されたといった「物盗られ妄想」につながることも多いです。この場合、一番近い存在の家族や、最も長い時間介護をされている方に対して、症状が現れるケースが多くみられます。
特徴3│日常生活・社会生活への影響
- 朝ご飯はまだかな? まだ食べてないよ
- 昨日の電話? 電話なんてしていないよ!
加齢による物忘れでは「最近、物忘れがひどくなってきたな……」というように、本人の自覚がありますよね。それは出来事の一部を忘れているため、忘れている部分を思い出せないという認識があるからです。認知症の記憶障害では出来事自体を覚えていないため、そうした本人の自覚はありません。周りは気がついているものの、本人は全く自覚がないため、日常生活・社会生活にも影響が出てきます。例えば、食事をしたことは覚えているものの、おかずは何だったかを忘れてしまうのが物忘れ。食事したこと自体、記憶から抜け落ちているのが記憶障害です。
記憶障害がある方との接し方
家族など身近な方が記憶障害となった場合、どのように接したらよいでしょうか。大切なのは、本人を否定しないこと。そして、記憶障害を前提とした日常生活の工夫です。それぞれについてご紹介します。
ポイント1│否定をせずに傾聴し、繰り返し説明をする
- 同じことをたずねることがあっても、初めて話すように繰り返し説明をしましょう
- 「ものがなくなった」「盗られた」と訴える時も否定をせず、「一緒に探しましょうか」と優しく声をかけましょう
本人の認識を否定しないことが大切です。ものをなくしたと主張される場合は、本人に見つけてもらうように支援をしましょう。家族が見つけて手渡すと、「やっぱりあなたが盗んでいたのね」と思い込んでしまうこともあるため、注意が必要です。
ポイント2│視覚的・聴覚的な情報を活用する
- 財布や鍵など、大切なものは置き場所を決めておきましょう
- 探すことが多いものに音の鳴る鈴をつけるなど、気がつきやすいよう工夫しましょう
- 大切なことはメモやメール、手紙に残しておきましょう
- スマートフォンのスケジュール機能やアラーム機能を活用しましょう
たとえば、財布や鍵は、寝室の引き出しの一番上や玄関のトレイの上に必ず置くなど、場所とものを関連付けておくとよいでしょう。記憶だけをたのみとするのではなく、メモやスマートフォンの活用も効果的です。
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