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訪問看護が取り組むBCP策定のプロセス〜その1〜

西宮協立訪問看護センター、管理者の稲葉典子です。2021年の介護報酬改定において、2024年4月から介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)の策定が義務化されました。自然災害や感染症が発生した場合でも、訪問看護の事業を安定的かつ継続的に提供するための計画を立てることが求められています。

 

私は、2021年度・厚生労働科学特別研究事業である、在宅医療のBCP策定に関わる研究に訪問看護BCP分科会メンバーとして参画しました(詳細は公式サイトをご覧ください。外部サイトが開きます)。この経験を踏まえて実施した、当事業所のBCP策定のプロセスについて、2回に分けてお話しします。

 

 

 

BCP策定の考え方

 

BCP策定にあたって、まずお伝えしたいことを端的に書いてみます。

 

カンペキはめざさない、いや、めざせない!だってこれは計画だもの。まずは60点をめざそう。赤点ギリギリからのスタートだけど大丈夫!

 

これは訪問看護管理者として、BCPを策定し終えたときに思わず出てきた感想です。BCPをこれから作成される方も見直される方々も、「カンペキをめざさない」とは意外に思われたかもしれません。

 

当事業所が策定したBCPは「2021年度厚生労働科学特別研究事業 在宅医療の事業継続計画(BCP)策定に係る研究~訪問看護編~(外部サイトが開きます)」のひな形を使用しました。この研究班のタスクフォースである山岸暁美氏(一般社団法人コミュニティヘルス研究機構 機構長・理事長/慶應義塾大学医学部公衆衛生学教室)は、「BCPは育てていくもの」と繰り返し述べています。

 

はじめに「BCPとは何か?」を考えてみましょう。BCPとは、Business Continuity Planの略称で、日本語にすると業務継続計画。そう、これは「計画」なのです。訪問看護事業でもよく活用されるPDCAサイクルで言えば、「計画」は一番最初に取り組むべきことです。PDCAサイクルは「Plan:計画」「Do:実施」「Check:評価」「Action:対策」と続き、再び「Plan:計画」に戻ります。BCPにおいてもこのPDCAサイクルの考え方が大事だと考えています。PDCAサイクルをうまく回していくことで、最初に策定した「計画=BCP」は育っていきます。

 

 

 

「育てること」を前提にBCPを策定する

たとえば、BCPは研修・訓練(Do)を通して、計画の不備が明らかになることがあります。不備をクリアにするためには、BCPを見直し(Check)、変更する(Action)という工程が必要です。そして、ふたたび計画(Plan)されたBCPをもとに研修・訓練(Do)していく……。こうしたサイクルの最初に必要なのが「BCP策定」です。

 

カンペキなBCPというものがあるとすれば、PDCAサイクルを回し続け、軌道に乗せ、「これ以上は修正不要」というレベルに達したものを指すのかもしれません。しかし、いくら厚生労働省によりBCP策定が義務化されたとはいえ、訪問看護ステーションというのは、内部環境・外部環境の変動が避けられず、不確実性の高い対人援助事業であるというのが実際です。まずは肩の力をぬいて、育てることを前提にBCPを策定してみてはいかがでしょう。「まずは60点をめざそう」という気持ちで!

 

 

 

訪問看護でのBCP策定とは

訪問看護ステーションが対象とする方々は、地域の中で暮らしています。住み慣れた地域でどう生きていくか、という課題に私たちの支援力が問われるのです。BCPの目的は、「利用者・職員の命と生活を守る」ことに尽きます。訪問看護ステーションとして、平時にどう備え、有事にどう動くか。目的からブレないよう、BCP策定に向けて検討していきましょう。

 

訪問看護事業は、その事業特性や経営視点から、「人と移動手段をどうするか」が、BCP策定のポイントになります。事業経営上、7割を超えるのが人件費であることは、厚生労働省による介護経営実態調査で明らかになっている通りです。訪問看護ステーションで働くスタッフが、有事にどのような動きをするか。これが、策定していくBCPの軸になります。

 

 

 

平時から有事に備えるということ

私たち訪問看護ステーションの大きな強みは〈地域に出向き、地域の医療ニーズを肌で感じながら、重症化予防・自立支援ができること〉です。

 

ということは、たとえば「大規模災害後、避難所への訪問に実績算定が認められる」など、有事においては居宅以外の訪問も臨時措置として認められる場合があります。有事においてさらなる健康課題にさらされた地域住民の方々に、訪問看護とリハビリテーションを提供できる可能性があるということです。

 

訪問看護ステーションは、有事で混沌とした医療機関への入院を減らしたり、自然災害や感染症まん延による心身のダメージを最小限におさえるといった介入効果を期待されるでしょう。臨時措置の例をひとつあげるなら、2011年3月11日の東日本大震災は、今なお多くの方の記憶に残っているのではないでしょうか。こうした被災地でどのように移動し、支援ができるのか、想像してみてください。地域をサポートするということは、「人」だけでなく「移動手段」の確保も重要となります。

 

 

※つづきはその2をご覧ください

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