看取りを考える〜訪問看護の現場から〜[その1]
西宮協立訪問看護センター、管理者の稲葉典子です。訪問看護の現場において、とても大切な言葉のひとつである「看取り」。今回は「看取りを考える〜訪問看護の現場から〜」と題し、2回に分けてお話します。だれもが直面する「看取り」について、考えるための一助になればと思います。
「看取り」を問う
「看取り」とは何かという問いに一言で答えることは困難です。よく使われるようになってきた言葉ではありますが、一般にまだまだ馴染みがうすいのが現状ではないでしょうか。
皆さんは「看取り」という言葉にどのようなイメージを持たれますか?
・人生を全うする最期の時期を看病する
・息を引き取るところを見守る
たとえば、こんなふうに捉える方がいらっしゃるでしょう。間違いではありませんが、これが全てとは言い切れません。こうした例も含め、一般的に看取りは「人生の最終段階に携わることそのもの」を指していることが多いと思われます。
看護師として訪問看護に携わるなかで、「看取りの時期が近い方の訪問」や「看取りのケア」といった依頼を受けることがあります。医療・介護は、「たったひとりの人生は必ず全うする時期がくる」という認識のもと発展してきました。これは日常生活の延長線上のことではありますが、ご本人はもちろんご家族にとっても経験がなく、不安に思う時期が多くあることでしょう。私たち訪問看護師はこうした時期におられる方々を支える職種でもあります。
人の人生の最期に携わることは特別なことであり、迷いや不安を感じることも多くあります。「病院ではない、ふだん過ごされている生活の場所」で、少しでも穏やかに過ごすため、訪問看護では看取りの時期に生活の場所に訪問し「看取りをされる人」「看取りをする人」の両者を支援しています。
看取りの支援とは
看取りの時期は、臨死期に至るまでのさまざまな苦痛を和らげるため、「緩和ケア」という手立てが必要な場面が多くあります。「緩和ケア」という言葉についても、馴染みのある方と、聞いたことはあるけどよくわからない、という方がいらっしゃると思います。
WHO(世界保健機構)は、2002年に緩和ケアを以下のように定義しています。
生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチ
(日本ホスピス緩和ケア協会ホームページより│下線は筆者)
看取りの時期には、下線部分の問題が出やすい傾向にあります。また、お一人おひとり、過程や背景が異なるため、Aさんに効果のあった方法がBさんには通用しない、ということもあります。たとえば、同じタイプのがんが同じように転移した方がいたとして、Aさんは痛み止めがよく効いたので、体格の似たBさんにも同じ量を使ってみたところ全く効かなかった……ということが起こりえるのです。
身体的な問題としては、その人が痛みをどう感じるか、ふだんどのように生活上で動いているかなどが影響することで、痛み止めの効き方が違ってきますし、心理社会的な不安や心配事によって痛み止めの効果が左右されることもあります。そうした苦しみを、死期が差し迫ってきた中で理解してもらえないつらさも身体的な痛みに影響してきます(緩和ケアではこのような類のつらさを「スピリチュアルペイン」と言います)。
訪問看護で行う看取りの支援とは、身体的な面だけを対象とするのではありません。お気持ちや周囲の状況を把握しながらトータルで問題をとらえ、利用者さまやご家族に向き合いながら手立てを考えていくことです。薬の増量が必要か? 安楽な姿勢をとるにはどうしたらよいのか? 等を具体的にチームで考えます。加えて、つらいお気持ちを聞かせていただけるようなアプローチも実践。医師や関わっている人々と相談していきます。
※「臨死期の看取り」と「最期のとき、訪問看護の関わり」はその2へつづく